2003年03月15日
これを書いている今日は3月14日。明日は新型CLIE PEG-TG50の発売日。発表時は愛用のT650後継モデルがキーボード・モデルということで相当落ち込みましたが、紆余曲折で買うことに決めてしまうと、やっぱり待ち遠しいです。すでに予約したショップから入荷連絡はあったので、明日の朝一番にゲットしに行くだけなんですが、興奮して眠れない(笑)のでコラムを書いてみます。
なお、道具眼モードの話題はお休みです。ごめんなさい。まぁ、まったく無関係という訳でもないですが。最近コチラにWikiという掲示板のようなシステム使って、下書きを公開してるので、待ちきれない人はどうぞ。
最近、ユーザビリティ・スキルの教育について議論する機会が多くて、「使いやすさを評価する」ってどういうことなの?どうやって習得できるの?と考えたりします。で、もっとも身近な例として(一応それで食べている)自分挙げて、普段どうやってるんだろう、いつどうやってスキルを獲得したんだろうと自問自答したりしてます。
そんな中、今夜みたいな新製品発売前夜の待ちきれない時にしていることを振り返ってみると、結構ユーザビリティ評価スキルに近いことをしているのに気づきます。今回はそういう観点から、σ(^^)の新製品発表から購入までの流れを綴ってみます。
■概要把握
まず、メーカーから新製品発売のプレスリリースがあります。たいていは即発売ということはなく、半月から長ければひと月以上の間があきます。リリース読んで「ビビッ」と来てしまうと、発売日まではとても辛く長い時間となります。
そういう待ちきれない時間にまずすることは情報収集です。目玉はなにか?前モデルから変更になった点はどこか?など、プレスリリースはもちろん、主要ニュースサイトの記事を隅々まで読みます。たいていはそれだけでは飽きたらず掲示板サイトなどにいって、事情通な人の発言からも情報を集めます。
これは評価業務では概要の把握フェーズですね。評価対象品を借りてきた時にまずやることと同じです。ただ、実際にモノが目の前にある訳でなく、情報は限られます。特に操作性に関することはリリースや記事で知れることはそれほど多くはないです。
■表面探索モード〜インスペクション
操作性に関する情報がない場合どうするか。予測します。文章に書いてなければ、あとは写真くらいしか手がかりがないので、写真を穴があくほど見るのです。「前のモデルには無かったボタンが増えてるな」とか「あのボタンが見あたらないぞ。もしかして機能が削られたのか?」とか。明日のTG50の例で言えば、「なにやらこんなところに不思議な赤線と青線の入ったボタンがあるぞ?」とか。 記号類を入力する時のモディファイアである「Fn」キーや「Alt」キーが無くなっているので、おそらくその替わりかなと。各キーの上にシルク印刷されている記号なども赤いものと青いものがある。これはその色の線のボタンを押しながら押せ、ということを意味してるんだろうから、間違いあるまい、など。
表面探索モードで、各インターフェイスを操作した時の挙動を予測するわけです。更には、それがそうなっていることの意味やメリット/デメリットまで思いを巡らせれば、それはもう立派なインスペクション評価だと言えます。「確かに"Fn"とか"Alt"とかってあってもパソコン上級者でないとメタファーとしては機能しないし、かえって見た目難しそうな印象を与えるだけかも知れない。」とか、「赤と青ってある種の色覚異常の人には判別が難しいので、同じ横線なのはどうよ?マニュアルではどう書くんだ?『赤線ボタンを押しながら"S"キーを押します』とか?彼らは赤線と青線の見分けができないんだからダメじゃん?」とか。
(やべっ、だいぶ眠くなってきた。明日朝イチで起きられるのか?)
■シナリオモード〜コンテクスト想定
メリット、デメリットを想定するのはインターフェイスの善し悪しだけに関してはありません。その製品の仕様や新機能が自分に取って有益か、買う価値があるのか判断しなければなりません。さすがのσ(^^)も使いやすさだけでモノを買うワケにはいかないですし。そんな時は、写真を眺めて機能を予想するよりも更に想像力を働かせます。妄想と言っても良いでしょう。日常のあらゆるシーンでどう役に立ちそうかモンモンと(?)イメージするわけです。道具眼モードで言えばシナリオモードに相当しますね。業界用語では、「利用コンテクストの想定」なんて言ったりします。この“妄想”はまさに自分自身をターゲットユーザとした利用コンテクストの想定作業に他なりません。
利用コンテンツの想定は、先に挙げた細かなインターフェイスの善し悪しの評価と違って、「こういうのが良い/悪い」というようにチェックリストやガイドラインのような形に落とし込むのが難しく、ケースバイケースで吟味することが重要です。また製品企画の根幹を為す部分でもあるため、インターフェイス設計よりもずっと早い時期に入念に検討することが必要になります。そういった意味で、我々の業界でも枝葉末節なデザインガイドラインよりも重視される傾向が強まってきています。
ともあれこうして自分の日常コンテクストに当てはめて、その新製品の機能が自分にとって有益かどうか判断するワケです。この“妄想”過程が逞しすぎると、あるいはフィルタリングが甘すぎると、σ(^^)のようにガジェット買いで生活を危うくすることになりますので注意が必要です。「なに?腕時計にGPS内蔵?ほぅ。山で遭難した時に便利だろうな。いつかどこかで役に立つかもな。」
■なんかあんまり特殊なことはしてないかも?
というワケで、書いてるうちに日付が変わって発売日となりました。あと数時間でゲットできるのかぁ。ワクワク。
ほどよい眠気がかなりの乱文を生んでます。本来ならWikiのほうに出すような未完成感の高い文になっちゃいましたが、たまにはリアルタイム感があるコンテンツも良いかなと。
結局、何が書きたかったかというと、程度の多少はあれど、つっこんで分析してみると、ユーザビリティ評価って普通に人がものを買う時の選択行動と本質はかわらないよね、ってことです。誰でもやってることなんじゃないかと。「ワタシは製品買う時にそんなモンモンと妄想しません」という人もいるでしょう。でもたぶん意識されないだけで、マイクロ・インスペクションは誰の中でも起きている気がします。商品ジャンルによって得手不得手はあるでしょう。以前、母親と店で食器を見ていた時にσ(^^)がデザインがイケてるのを見つけて「これにしよう!」と言ったら、「そんな形じゃ洗いにくいからダメ」と却下されてちょっとショックでした。もちろんその食器を買ってもらえなかったからではありません。当時σ(^^)はインスペクションというスキルが何か特別なことのように思っていた気がします。でも普段機械操作が苦手でビデオ予約すらなかなか覚えてくれない母親に、キッチンウェアという分野においては“インスペクション負け”したワケです。大学院時代の師匠、三宅先生から常々ユーザビリティ評価にはその製品ドメインの背景知識が重要と聞かされてはいましたが、それを身をもって知らされた出来事だったと思います。ロクに皿洗いも手伝ったことがなかったσ(^^)と違って、母はキッチン周りの膨大なコンテクスト情報を背景にしたインスペクションを行ってたんですよね。もちろん本人にはそんな意識すらなかったと思います。もしかしたらユーザビリティ屋って、そういう認知活動に関して他の人よりちょっとだけ自意識(メタ認知)がある、ってだけにすぎないのかも知れません。
(なんだ、一応道具眼モードの話になった、、、かな?)