2004年05月18日
えー、皆さま、明けましておめでとうございます(^^;)。2004年初の道具眼コラム をお送りいたします。
■手書きも定量データも
前回のコラムで、ユーザテストの記録を紙に手書きした場合と、PCで記録した場合のメリット/デメリットを論じました。紙はスケッチなどを交えた記録が容易であること、PCは後の集計が楽なことがそれぞれ長所であり、色々と両立させる試みを行っている、という概要でした。
そんな折り、別方向の興味からTabletPCを入手しまして、コイツを使えば両方の長所を取り入れた記録システムができるかも知れないと思い、試験的に業務に導入してみました。今回はその報告です。
「別方向の興味」については、近日中にCNETさんの連載に書かせていただけそうなので、その折りに(^^)/...
■TabletPCって?
まず最初に、「そもそもTabletPCって何?」という方のために概要を紹介しておきます(ご存じの方は次の節までジャンプして下さい)。
TabletPCは、WindowsXPをベースにした、Microsoft製ペン・コンピューティング用OS、WindowsXP TabletPC Editionを搭載したPCで、OSとしては、WindowsXP Professnal Editionに、手書き文字認識や音声認識機能、手書きノート、手書き付箋などのアプリケーションを追加したような構成になっています。ハード面では、液晶画面部分がペン・タブレットになっており、ペンを使って直接画面をタッチして操作や描画が行えます。ノートPCの液晶部分を裏返しにして畳むコンバーチブル型[東芝]や、キーボード非搭載のスレート型(またはピュア・タブレット型)[NEC]などのバリエーションがあります。キーボード・ユニットと合体して、ノートPC形態になるもの[HP](←σ(^^)が購入したのはコレ)や、省スペース・デスクトップ形態になる[富士通]という燃えるギミックをもったのまであります。
立ち仕事の現場など業務ユースが中心で、家庭ユースでの売り方が定まってないせいか、量販店などで見かけることがなく、ややマニアックな位置づけの製品ですが、従来のPDAのような単純なタッピングを中心にしたオペレーションから更に一皮むけ、紙のノートや書籍のユーザビリティに近づいた面白さがあるカテゴリだと思います。
■Windows Journalで観察記録してみました
さて、このTabletPCですが、日本語の手書き文字認識の優秀さもさることながら、「Windows Journal」という手書きノート・アプリケーションが非常に秀逸で、このソフト1つでTabletPCを、専用のペン・オペレーション・ソフトウェアを開発して利用するような特殊業務用途以外の場面に活用の場を広げていると言っても過言ではないでしょう。大雑把に言えばただのお絵かきソフトなんですが、非常に自然な書き味を実現している点、筆跡データ(インク)をドロー・ツールのように再移動や変形が容易にできる点、Journalノートライタ[Microsoft]という仮想プリンタからテンプレートが作成できる点が特長です。
今回、とあるユーザ・テストで進行役を仰せつかりまして、そこでこのWindows Journalを実戦投入してみた次第です。Wordでもらった観察記録シート(兼進行シート兼アンケート記入シート)をJournalノートライタで変換し、すべてJournal上で記入を行いました。
[参考] Windows Journal v.s. Adobe Acrobat
Journalノートライタのような仮想プリンタは、Acrobatの方が老舗で、あちらでも「鉛筆ツール」で手書き注釈が入れられるんですが、その書き味がダメダメです。素早く書くと処理がついて来れず、筆跡が欠け落ちてしまいます。Acrobatの方がファイル形式としては汎用性が高いので、Adobeさんもこういう用途を想定して改良をしていただきたいものですね。
・良かった点
書き味はほとんど問題無し。ただ、かなり隅っこの方に行くとキャリブレーションが合いにくくなる(ペンの位置とカーソルの位置がズレるの)で、念入りに調整する必要があるかも。
Journal上での表示サイズは可変ですが、Window Fitな状態にしておくと、TC1100のサイドに設けられたシャトル・ダイヤルみたいなデバイスでページめくりができて、いい感じでした。進行中、ページ前のページに戻って確かめることができたり、後に予定していた質問の答えを先に言われて慌ててページを先送りして記入欄を探したり、隅を綴じた紙だとめくるのが結構大変なんですよね。残念ながらズームなどWindow Fit以外のサイズに設定するとスクロール動作になってしまうので、Wordなりで元ファイルを作る時にズームせずとも判読が容易な少し大きめの文字サイズにしておくことで対処ですかね。
それと電子インクの醍醐味の編集関係について。選択(選択ツールで囲む)->移動(ドラッグ)は、今回あまり使ってる余裕なかったですが、この手の手書き書類では記入位置、というか配置が結構意味を持っていて、「この行間に一言書き加えたい!」って時に、矢印を余白まで引っ張って書くとかしなくてすむのは便利です。
Messengerでの手書き入力例(クリックすると拡大と説明) |
ちょっと別の観点からの電子化メリットは、インスタント・メッセンジャー(IM)が使える点。通常、観察室側からの指示はイヤホンから音声で伝えられるんですが、被験者が同時に話し始めたりすると進行役の負荷は高まります。IMなら進行役が余裕のある瞬間を選んでメッセージを読み取れるので楽でした。しかも、進行役の側からメッセージも送れます(TabletPCでは、MSN Messenger上でも手書きが使えます)。進行上の不明点等を(被験者に悟られずに)問い合わせたりできる価値は、進行役をやったことがある方ならおわかりでしょう。今回も「暑い」だの「寒い」だの実験室の空調操作もできてシアワセでした(笑)。TC1100サイドにあるハードボタンのひとつに「Alt+Tab」送出を割り当てて、JournalとIMの会話ウインドウだけが開いた状態にしておけば、ボタンひとつで2つのウインドウを交互に行き来できます。
・ツラかった点
キーボード分離状態のTC1100は1.4kg。座ってやる分には重さはさして苦ではなかったですが、背面の発熱は結構気になりした。特に半袖だと直接肌で触れますし。前述のIMを使うために内蔵の無線LANモジュールをONにしてあることも発熱を増加させる一因でしょう。
モリモリ記入していると、書き損じた時にツールバーから消しゴム・アイコンをクリックするのが結構面倒です。テスト何セッション目かの休憩時間に速攻で反対側が消しゴムとして使えるペンを注文しました。これが純正オプションのクセに日本未発売で、アメリカのショップから買うことに(予定納期半月後、送料がペン自体と同額程度...orz)。消しゴム・アイコンをクリックするのと、ペンを逆に持ち変えるのとどっちが楽かまだわかりませんが、普通に日本でも売って欲しいですね(てか最初からそっちを添付しといて下さい。>HPさん)。
■速記も使ってみました
道具眼式速記も使ってみました。普通に日本語で書くよりは効率が良いのも確かですが、色々課題も見えてきました。
我々は現状の速記を、「ユーザの行動や反応」を記述することに重点を置いて設計してきました。それは事実の記録として大事だとは思うんですがど、実際の業務でそれが直接活用されることはあまりない気がしてきました。あまり詳細な“行動ログ”が必要になるような機会が少ないのです。
むしろ、レポート書く時に考察ネタに使えそうなセッション共通の傾向だとか、気付いた問題点と言ったもう少しメタな思考の記述こそ大事なんじゃないか?って気がしてきました。行動記録は最悪でもビデオには残ってるけれど、セッション中の閃きは自分が書き留めるしかないワケで...
■電子手書き記録環境を目指して
試作した電子観察シート(クリックすると拡大と説明) |
今回のトライアルで、TabletPCのインク・システムが、観察記録に使っても致命的な問題は無く、充分な実用性を持っていることがわかりました。あとは電子記録が元々もっている方の長所、チェックボックス集計や達成時間といった定量データの扱いを同時に行うことが課題と言えます。裏にExcelを立ち上げておいて、交互に記録する、というのはスマートではないですね。TabletPCのインク・モジュールはVisualStudio.NET用のSDK(開発キット)が公開されており、比較的簡単に自作アプリに組み込めることも実験済み[道具眼blog]です。手書き記録とチェックボックス記入、時間計測などがシームレスにできる観察記録アプリケーション、作ってみたいですね。